LINE公式アカウントやLステップなどのツール導入にあたって「IT導入補助金」を活用したい事業者は多いと思います。そんな方々を対象に、IT導入補助金の流れや具体的な手続き、注意すべき点などをまとめました。
IT導入補助金の支援事業者として申請サポート経験のある筆者が、なるべく全容をかみ砕いてご説明します。
IT導入補助金とは?
中小企業・小規模事業者等の生産性向上を目的として交付される補助金です。生産性の向上が目的のため、「生産性の向上」に繋がるITツール導入を行う際の経費を対象として、その一部が補助されます。
✓ 生産性の向上が目的です。
✓ 生産性の向上に沿わない内容で申請を行っても不採択となります。
「生産性の向上」という一番の目的を意識して下さい。申請の際にこの要件がしっかりと満たせているかは非常に重要です。ITツール(LINE公式アカウントやLステップ)を導入して、業務効率化・DX化が出来るなら、それは生産性の向上に繋がると言えるため補助金申請の目的に沿っていますね。
一方でLINE公式アカウントやLステップを導入して「リピーターを増やしたい」や「売上を伸ばしたい」ここだけを記載した申請内容だと、IT導入補助金の目的に沿っていないことから、申請時の審査で厳しい目で見られるでしょう。IT導入補助金は販促費の補助ではありません。
なんのためにIT導入補助金が存在しているのか、を理解することが最も重要です。公募要領にもしっかり書いています。
IT導入補助金申請の登場人物(3者)
補助金の申請と聞くと通常、「申請する事業者」と「国や地方自治体」の2者だけをイメージされるかも知れません。専門家に申請を代行する場合でも、あくまで「申請する事業者」と「国や地方自治体」の2者で、専門家は前者の立場に立って申請を行います。
しかし、IT導入補助金の参加プレイヤーは必ず3者登場します。「ITツール」の登録を行っているIT導入支援事業者です。支援事業者は「ITツール」自体を開発・提供している会社と同一である場合もありますし、他社の「ITツール」に乗っかって代理店等として支援事業者をやっている法人もいます。IT導入補助金はIT導入支援事業者と申請者が「共同事業体」として一体となり申請を行います。
またIT導入補助金事務局は事務運営を行っていますが、その大元は経済産業省所管の独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)です。申請にあたっては窓口がIT導入補助金事務局(以下、事務局)となるため、中小機構とやり取りすることはありません。
Q&A
Q:自社でLINE公式アカウントやLステップを構築して、IT導入補助金の申請を行いたいが可能ですか?
A:できません。IT導入補助金はIT導入支援事業者と共同で行う必要があるため、自社だけの申請は行えません。
Q:Lステップの構築を個人のフリーランスにお願いして、その料金をIT導入補助金で申請できますか?
A:できません。IT導入支援事業者が構築を支援する必要があり、申請自体も構築支援した「IT導入支援事業者」と二人三脚で進める必要があります。「IT導入支援事業者」は法人のみ登録が可能です。個人へ支払った構築費はどう頑張っても申請対象にはなりません。
Q:個人事業主でも申請できますか?
A:できます。補助金を受け取る側の申請者は個人事業主も対象です。
Q:設立したての会社です。申請できますか?
A:できません。法人の場合、「直近分の法人税の納税証明書」を税務署に発行してもらう必要があります。そのため最初の決算申告が完了していない場合は、証明書を準備することが出来ないため申請が行えません。
ITツールとは?
IT導入補助金の話をする際によく出てくる「ITツール」とは、IT導入支援事業者が事前に登録を済ませてあるITツールのことを指します。そのため、事前に登録されていないソフトウェアは対象になりません。また、ITツールの登録は生産性の向上に繋がると事務局が判断して登録審査をクリアしたものに限られます。
「Lステップ」で登録されているITツール一覧はこちら
他のキーワードでも探してみて下さい。Lステップだけでも38件ヒットしたので、この38社にお願いしたら、Lステップ導入の支援をIT導入補助金申請サポートと一緒に提供してもらえる、ということですね。
ITツール登録は「IT導入支援事業者」登録を済ませれば複数登録を申請することが出来ますが、補助金の目的に沿っていないソフトウェアや役務の提供を登録申請しても、もちろん落とされます。なので裏を返すとITツール登録が完了しているツールは、基本的には中小企業の「生産性向上」を達成することが出来るツールと言えます。
だからと言って、申請したら誰でも採択されるわけではありません。重要なのは「①あなたの会社が」「②ITツールを導入することで」「③ちゃんと生産性向上に繋がって」「④企業課題がちゃんと解決されるのか」という点だと思います。導入しても生産性向上し無さそうなら、補助金を出す意味ないですからね。
IT導入補助金の補助率(+A類型とデジ枠の比較)
IT導入補助金には複数の枠が存在します。それらの枠によって要件や補助率が異なっています。
3つの枠(と6つの類型)
1、通常枠
-A類型
-B類型
2、セキュリティ対策推進枠
3デジタル化基盤導入枠(通称:デジ枠)
-デジタル化基盤導入類型
-商流一括インボイス対応類型
-複数社連携IT導入類型
この中でLINE公式アカウントやLINEマーケツールはどの枠で申請すれば良いか、ですが通常枠(A類型)又はデジタル化基盤導入類型となります。デジ枠の方が補助率等が高く、申請要件も厳しくなっています。
デジタル化基盤導入類型で申請する場合の要件:
会計・受発注・決済・ECのうち1機能以上満たす場合に限られます。
会計機能はLINE公式アカウントには備わっていないため、デジ枠で申請する際は、「決済(stripe等の決済機能と連携やメンバーシップ機能などの決済機能を活用)」したりLINE公式アカウントを「ECサイト」のように構築したりする場合が当てはまります。一方で、Lステップでステップ配信を行って、リアル店舗への集客に使ったり、自社のオンラインサイトに誘導してWEBサイト上のEC販売サイトで商品を購入してもらう(そのための販促ツールとして活用)する場合などは、デジ枠では厳しいでしょう。その場合は、通常枠A類型で申請を行います。
この両者の申請については、サポートを行うIT導入支援事業者がそもそも対応可能かどうかで変わってくるため、各支援事業者に事前に「どのようなLINE公式アカウントの構築になるのか」「どの枠になるのか」を相談して下さい。
最大350万円を謳っている業者は、デジタル化基盤導入類型を想定していると思われます。
対象となる経費と対象とならない経費
対象となる経費について、通常枠(A類型)とデジ枠(デジタル化基盤導入類型)で若干異なっています。ただ、ハードウェア関連費を除くと他は共通です。
対象経費(共通):
ソフトウェア購入費、クラウド利用費(クラウド利用料最大2年分)、導入関連費
デジタル化基盤導入類型のみ:
ハードウェア関連費=PC等(※10万円以内)
LINE公式アカウントやLステップ、エルメの場合、月額でかかってくるツール利用料が2年分まで対象となります。2年まとめて一括で支払いを行い、その後に補助金で1/2等が戻ってくるイメージです。また、導入に当たっての構築費(構築のためのコンサル費用)、サポート費用なども導入関連費として申請が可能です。
対象となるツールを導入して利用できるようになるまでに直接関係しているコスト全般、と考えてもらえればイメージしやすいかと思います。
一方で、LINE公式アカウントの構築にあたって別途、友だちを増やすためのLP(ランディングページ)も併せて制作依頼します、といったケースの場合、LP制作費は対象外です。これは間接的なコストであって、関連性が認められません。
IT導入補助金は生産性向上が目的です。
そのため、ツール導入に当たってワードプレスでHPを制作したり、LPを制作したりする費用は対象になりません。関連性がないため対象外とも言えますし、そもそも関連性がない=生産性向上の目的にそぐわないとも言えます。これらは販促費ですよね。
公式のよくある質問にも以下のQ&Aが明記されています。
Q:ホームページ制作は補助対象ですか。
A:ホームページ制作(ECサイト制作含む)は補助対象外となります。
一通り目を通しておきましょう。
補助対象者の範囲(中小企業・小規模事業者等)
「申請者」自体にも要件があります。中小企業・小規模事業者等に自社が該当するかを事前にチェックしておきましょう。
中小企業(個人事業も含む)
資本金・従業員のいずれか一方が表の数値以下であれば対象となる。
画像をクリックして拡大できます。
IT導入補助金の大まかな流れとスケジュール感
実際にIT導入補助金を申請してLINE公式アカウントやLステップ、エルメ等の構築を始めていく際の全体スケジュールは以下のようになります。
✓ 交付申請してから採択発表までは約1か月かかる。
✓ LINE構築は目的やどのような規模かによって期間が大きく変動するため、事前に支援事業者に相談しておく。
✓ 先に支払いを行って、後から補助金が入金される(キャッシュフローに注意)
✓ ③採択(交付決定日)から④LINE構築を完了するまでの期間(事業実施期間)はおよそ半年と決まっています。締切があるため、申請前に必ず公式サイトでスケジュールをチェックしておきましょう。IT導入補助金2023スケジュール >
LINE公式アカウントだけの構築なら比較的期間は早くなる印象ですが、LINEマーケツールを利用して、ステップ配信などをしっかり取り組む場合やリッチメニューの出し分けなど複雑性の高い構築が必要な場合は構築期間も数か月単位で変わってきます。また、LINEアプリ開発を行う場合も期間が長めにかかるでしょう。事前にスケジュール感をもって動きましょう。
①事前準備:「書類(PDF)」「ID・アカウント作成」
交付申請を行うために必ず揃えるものは以下の通りです。PDFについては、申請時に管理画面上でアップロードして提出します。紙しかない場合はスキャンしてPDF化しましょう。IDやアカウント作成は基本、オンライン上で実施します。
ただし、gBizIDプライムの発行にあたり法人の場合だけは郵送が必要となります。発行まで1週間程度はかかるため、まず最初に動き出すことをおススメします。みらデジ経営チェックはIT導入補助金2023から必要になった手続きです。オンライン上で比較的すぐ完了しますが、gBizIDプライムがないと手続きが出来ないため、先にgBizIDプライムの発行を進めましょう。
上記に加えて、別途SMS認証用の携帯番号の登録が必要です。SMSにて申請に必要なパスワードなどの通知を行ったり、申請に不備があった場合は事務局から連絡が入ることもあります。頻繁に電話がかかって来たりすることはありません。
gBizIDプライムはIT導入補助金に限らず、他の補助金申請や行政サービスで必要になる共通のアカウントです。そのため、IT導入補助金を申請しない場合でも中小企業の場合は基本的に作っておいて損はありません。
gBizIDプライムの公式ページはこちら
②申請:具体的な手続きと入力事項
必要資料やアカウントの準備が整ったら、申請を進めて行きます。「申請者」と「IT導入支援事業者」が二人三脚でバトンを渡しながら申請を進めて行きます。
マイページ招待:
まずIT導入支援事業者が、事業者ポータルの管理画面上から申請者宛にアカウント作成用の招待メールを送るところからスタートします。申請で利用する「申請担当者のメールアドレス」をIT導入支援事業者へ伝えましょう。
マイページ開設:
招待メールを受け取ったら、メールに記載されているリンクをクリックしてマイページの開設を行います。開設に当たっては事前準備したgBizIDプライムを利用します。以後、申請マイページへログインするにはgBizIDプライムが必要となります。
交付申請情報の入力:
基本情報・財務情報・経営情報の入力、必要書類の添付を行います。ここでの入力内容が審査に影響してくるため、手抜きをせずにしっかりと入力しましょう。迷ったらIT導入支援事業者へ相談して下さい。
計画数値・ITツール情報の入力:
労働生産性指標における各数値を決算書を元に入力します(売上・原価・粗利益・従業員数・年間の平均労働時間)。これらを入力すれば、自動で労働生産性が計算されます。併せて翌3年後までの計画数値も入力します。加えて、申請を行う事前登録済みのITツールもここで入力します。
賃金情報の入力:
決算書に基づいて、給与支給総額の入力を行います。また、A類型での申請の際は、翌3年後までの給与支給総額の計画値も入力することになります。
SMS認証と提出:
必要事項の入力が完了したら、登録している携帯番号でSMS認証を行い、交付申請を事務局へ提出します。※提出は「申請者」自身で行います。
より具体的な手続きは「交付申請の手引き」に書かれているので、こちらも参考にして下さい。
申請は余裕をもって行いましょう。期限ギリギリだと後からバタバタします。期限を過ぎると、また1か月後の申請になってしまいます。
③採択結果(採択・不採択)
「交付決定日」となったら採択・不採択の結果がメールで通知されてきます。申請を行った補助事業者と支援を行ったIT導入支援事業者、両方に通知が届くため、メールをまずチェックしましょう。
申請者/補助事業者への通知:申請時に設定した担当者アドレス宛にメッセージが届きます。また申請マイページからも確認が可能です。
IT導入支援事業者への通知:IT事業者ポータルに登録しているアドレス宛にステータス更新のメールが届きます。
メールでちゃんと通知してくれるので安心です。採択/不採択はメール本文にも記載されているため、メールで結果を知ることになるでしょう。
③再申請する場合
IT導入補助金の申請が「不採択」となった場合、次以降の募集で内容を修正して再申請することも可能です。また申請後に事務局から内容の不備を修正するように連絡が来ることもあります。この場合は事務局の指示に従い、修正を行いましょう。
一方で修正指示等がないまま「不採択」の通知のみが届いた場合は、原則として不採択理由を知ることは出来ません。「形式的なミス」や「提出書類に不備」といった事務局側からの働きかけで修正可能な範囲のものに限って、事務局からの連絡がきて修正できるのかも知れませんが、詳細は不明です。
「交付申請の手引き」には不備訂正について以下のように書かれています(P69)
「交付申請の手引き」P69
交付申請内容に不備等が見受けられた際は、事務局から不備訂正を求める場合があります。連絡を受けた事業者は速やかに再提出に応じるようにお願いします。
不採択となった場合、事務局に連絡してもなぜ不採択なのかは基本的に教えてもらえません。こうしたら申請が通りますよ、といったアドバイスなども当然ですが期待できないため、再申請する際は改めて「補助金の目的」や「申請する内容」をしっかりと見直すことをおススメします。
一方で、軽微なミスであれば事務局が訂正連絡をくれる、といった期待はしないで下さい。ちょっとしたことでも何の連絡もないまま不採択になる可能性がある、と厳しく考えて置いた方が安全です。万全を期して下さい。
④事業の実施:LINE公式アカウントやLステップの構築
無事に申請が通ったら、交付決定日に事務局からメールで「採択」のお知らせが届きます。この交付決定日からLINE構築を開始しましょう。もしそれよりも前に構築・運用をスタートさせたり、支援事業者へ支払いを完了していると補助対象とはならないため注意が必要です。
⑤事業実績報告
LINE構築が無事完了したら、支援事業者へ支払いを行います。請求書に基づいて、以下の条件に従って支払いを完了させます。事業実績報告では、間違いなく事業の対価が支払われたかの証憑の提出が必要となります。
事業実績報告で必要なもの3つ
1、支払ったことを証明する証憑類一式
2、補助金を受け取るための口座情報
3、LINEツールを導入したことを証明する画面のスクショ
⑥補助金の交付(入金タイミング)
事業実績報告を完了してから約1か月程で入金があります。
⑦事業実施効果報告を忘れない
IT導入補助金の入金を受けた後も、定期的に事務局へ報告を行う必要があります。それが事業実施効果報告です。入金前に行う事業実績報告とは別の手続きのため、忘れずに行いましょう。
事業実績報告:LINE公式アカウント等のツール導入が完了したことを報告する手続き。交付決定日から約半年間の間に事業を実施して報告する必要がある。本手続きが完了しないと、補助金の入金を受けられない。
事業実施効果報告:入金後、ITツールを導入した効果を報告する手続き。A類型の場合は1年後、2年後、3年後の3回効果報告を行う。
Q&A
Q:交付申請において提出した計画数値目標が未達の場合、補助金は返還となりますか?
A:利用する枠によって異なります。通常枠(B類型)の場合、賃上げ要件必須となるため、未達であれば一部又は全額返還となります。通常枠(A類型)では賃上げ要件は加点項目となり必須ではないため、計画数値未達でも返還とはなりません。
最後に:資料配布リンク
さて、いかがだったでしょうか。
実際に申請してみないと分からない内容も含めて、なるべく全容を記載しました。IT導入補助金は他の補助金(ものづくり補助金、事業再構築補助金等)と比べて比較的申請しやすいと言われていますが、それでも揃えるべき書類や記入すべき内容は少なくはありません。
せっかく申請を行うのですから、しっかりと採択されたいところですよね。
今回、記事執筆に当たって作成した資料は全て無料でご利用頂けるので、ダウンロードして自社の申請時に見返すなどご自由に活用して下さい。
また添付のスライド図を一部編集して活用したい事業者の方は、以下のお問い合わせフォームからご連絡頂ければ無料配布しています。IT導入支援事業者のご担当者などもお気軽にどうぞ。
IT導入補助金について、まだ解決できていない疑問やご質問などがあれば、無料相談を承っております。困ったときは、併せてご活用ください。
気合い入れて執筆を行いました。配布資料も含めて、少しでも申請時のお役に立てたら嬉しいです。